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2011.03.16 (Wed)

パトリシア・ハイスミス 扉の向こう側

扉の向こう側 (扶桑社ミステリー)扉の向こう側 (扶桑社ミステリー)
(1992/01)
パトリシア ハイスミス

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17歳のアーサーはアメリカ中西部の小都市に住む高校生。家族は保険外交員の父、やさしい母、多少神経質な弟の四人。事の発端は弟が高熱を出し生死の堺をさまよったことによる。父は自分の祈りが通じ息子の命を助けたと思い込み、その日以来家族に対してもクリスチャンとしての生活を強要。家庭内の雰囲気は次第に悪くなる。そんなとき、アーサーのガールフレンド・マギーの妊娠が発覚。家族は彼女の中絶に理解を示すが、アーサーの父は神の意志に反する行為と批難する。サスペンスの巨匠ハイスミス、最新長編。 (BOOKデータベースより)

どろどろサスペンスを期待して読んでいましたが(わたくし火曜サスペンス大好き女です)、その期待には応えてくれませんでした。確かに人は殺されます。人間がひとり胎児がひとり。まあ、胎児はジャパニーズ民法上「人」ではありませんが。。けれど、殺人を含めた急展開を迎えるのは、小説も終盤になってからです。それまでは、主人公アーサーを中心とした(主人公だから当たり前か)日常的な生活が語られています。ドロドロやドキドキとはなりません。なので、この小説が伝えたいテーマは別のところにあると思います。
これは、登場人物それぞれの「罪」と「罰」の物語ではないかと思います。
最近読んだドストエフスキーの「罪と罰」に影響されてるんじゃね??と言われそうですが、実際に繋がる部分があるのですよ。

BOOKデータベースのあらすじにあるように、主人公アーサーは彼女マギーを妊娠させます。大学入学を控えた二人は、やむを得ず中絶の道を選択します(ここは日本の感覚と違うのかもしれないけど、彼女マギーの父親は「なんで気をきかしてピルを飲まなかったんだ」とマギーを叱りました…)。
皆それを「仕方ないね」と受け入れているのに、父リチャードだけが大反対しました。中絶は神の意思に反するからと。マギーが入院しても、病院までしつこく電話をかけ、執拗に手術の中止を求めます。しかし結局、手術は実行されました。その後も、リチャードはアーサーに謝罪の気持ちを持つよう強く求めます。そこでアーサーはこう考えます。

(引用)他人から押し付けられた罪悪感なんてどうと言うことはない。罪の意識とは内側から湧いて出るものだ。

まあ、このときアーサーには、理不尽なリチャードに反抗したいという気持ちも少なからずあったのかと思います。
それにしてもこの言葉。「罪と罰」に繋がる部分が出てきました。本当にそのとおりだと思います。そして、「罰」にも同じことが言えるはずです。
弟ロビーはとある罪を犯し、半年間施設へ収容されることになります。けれど、ロビーには罪の意識がありません。半年間の軟禁生活も、全く負担に感じることがないようです。本人が罪を認めず悔い改めない場合、そこに罰はあるのでしょうか。

そしてまた、平凡で幸せな家族が崩壊していく過程が辛かった。私自身も、訳あって宗教にのめりこんでしまったという知り合いがいるので、何とも言えない気分です。いえ、宗教が悪いというのではなくて、何かに取りすがり自尊心を保とうとした父リチャードの姿がなんとも哀れだったのです。

ラストシーンには赤ちゃんが登場します。一人の登場人物の死があって、その人物の血を引く、新しい人間が誕生したのです。生と死のコントラストが、どこか悲しい余韻を残しています。

ハイスミスの小説は面白いです。もっと読んでみたいのに、残念ながら近所の図書館に置いてあるハイスミスは、これと「11の物語」だけ。つまり全部読んでしまったのでした。とほほ。
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08:42  |  パトリシア・ハイスミス  |  コメント(2)

2011.03.12 (Sat)

パトリシア・ハイスミス 11の物語

11の物語 (ハヤカワ・ミステリ文庫)11の物語 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2005/12)
パトリシア ハイスミス

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たまたま台所にあったボウルに入っていた食用かたつむりを目にしたのがきっかけだった。彼らの優雅かつなまめかしい振る舞いに魅せられたノッパート氏は、書斎でかたつむり飼育に励む。妻や友人たちの不評をよそに、かたつむりたちは次々と産卵し、その数を増やしてゆくが…中年男の風変わりな趣味を描いた「かたつむり観察者」をはじめ、著者のデビュー作である「ヒロイン」など、忘れることを許されぬ物語11篇を収録。(BOOKデータベースより)

寝る前にベッドで小説を読むのは至高のひと時です。でも、読む小説は選んだほうがいい。
「11の物語」を読んでしまうと、いたたまれない気持ちのまま眠りに付くことになるでしょう。
ハッピーエンドの物語は皆無です。人間って、怖い。
最初はミステリーかと思っていた「11の物語」。確かにその要素を含んではいますが、ミステリーの一言でカテゴライズしてしまうのはもったいないと思います。

パトリシア・ハイスミスという作家は、「普通じゃない」精神状態の人間を描くのがうまいです。
「かたつむり」を題材にしている2作品以外は、最後まで読むとぞっとする恐ろしさを得られますが、どれも極めて日常的な生活の中で起こっていることです。平穏と恐怖は紙一重、実はあまり遠くない位置にあるんじゃないかと思わされます。そのサインを受け取ると、小説を読んだときと同じくらい、再びぞっとする気分にさせられます。

そして短編の構成の仕方がうまいです。「モビールに艦隊が入港したとき」の冒頭部分がこちら。
(引用)ジェラルディーンはクロロフォルムのビンを手にして、裏口のベランダで眠りこけている男を見つめた。深く吸い込んでは短く吐き出す息が、口ひげの中をヒューヒューと音を立てながら通り抜ける。こうした息遣いは彼が真昼まで目を覚まさないときの癖だ。…今が絶好のチャンスだわ。
ヒョウ(意味不明な叫び)!!いきなり、そう来たか。全く無駄が無く、すんなりストーリーに入っていけます。次に次にと読みたくなる気持ちにさせられます。
ハイスミスの書き方には無駄な贅肉がありません。だからテンポよく読み進められ、サクサク物語が進み、気づいたら恐怖の穴に落とされていた…という感じです。

また、「かたつむり」を始め、スッポンや猫など多くの動物たちが出てくるのも特徴的ですが、どの動物の描写も「鋭い」。猫はまだしも、かたつむりやスッポンといったマイナーな動物たちの描写をするというのは難易度の高い行為でしょう。この点でも、ハイスミスの描写はやっぱり無駄が無く、うまい。
(引用)彼らは尾で立ち上がるような格好をして、フルート吹きに魅せられた二匹の蛇のように、向き合ったまましきりに体をゆらゆらさせていた。しばらくすると彼らは顔を近づけてうっとりしたように官能的なキスをはじめた。
彼らとはカタツムリを指しています。描写にもいろいろありますが、カタツムリを説明するのに「てらてらした粘膜が…」とか「鮮やかな美しい渦巻きが…」なんて描写は不要だと思います。だって言われなくたって分かるもん。

短編でこんなに圧倒的な「筆力」を見せつけられる作家も珍しいです。まあ、訳書ですから本物を読まないことには正確な書評もできないのですけど。次は長編を読んでみる予定です♪

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08:33  |  パトリシア・ハイスミス  |  コメント(2)
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