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2011.05.04 (Wed)

村上春樹 アンダーグラウンド

アンダ-グラウンドアンダ-グラウンド
(1997/03/13)
村上 春樹

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村上春樹が追う、地下鉄サリン事件。
迫真のノンフィクション、書き下ろし。

1995年3月20日、晴れ上がった初春の朝。まだ風は冷たく、道を行く人々はコートを着ている。昨日は日曜日、明日は春分の日でおやすみ──連休の谷間だ。あるいはあなたは「できたら今日くらいは休みたかったな」と考えているかもしれない。でも残念ながら休みはとれなかった。
あなたはいつもの時間に目を覚まし、洋服を着て駅に向かう。それは何の変哲もない朝だった。見分けのつかない、人生の中の一日だ……。
変装した五人の男たちが、グラインダーで尖らせた傘の先を、奇妙な液体の入ったビニールパックに突き立てるまでは……。(内容紹介より)

700ページを超える、地下鉄サリン事件の被害者インタビュー集です。被害者の生い立ちから事件当日の行動、事件に遭遇したときの様子、いまオウムに何を感じるかといった内容で構成されています(現在は「アレフ」ですが、ここでは当時の名前「オウム」で書きます)。読み進め、何人もの証言が重なってゆき、改めてこの事件の悲惨さを確認することとなったのですが、ぼんやりとその中に三つの共通項が浮かんできたような気がしました。

まずは、一連の報道のこと。マスコミの発信する情報が、非常に固定化されたものだったのではなかったかということです。地下鉄の入り口で心臓マッサージを施されている被害者の姿や、残された被害者の家族の様子が映し出され、視聴者への怒りの感情を刺激する報道の仕方が多かったように感じます。とにかくオウムは危険因子だ。敵だ。この街から出て行け。報道を受けた視聴者は、共通してこんなことを感じたはずです。このノンフィクションを読んで、被害者の症状や心情など、初めて知った事実が非常に多くありました。取材を受けた被害者が本当に伝えたかった意見の部分がばっさりオンエアでカットされていた、という例もあったようです。

それから二つ目は、どの組織も、初めてのことには迅速かつ的確な対応が取れないのだということ。サリンを吸引した患者が運び込まれた病院では、どのような治療をすべきか、また、患者数が多い場合、どのような症状の患者を優先して治療に当たればいいかなどの情報が皆無で、相当混乱をきたしたようです。サリンの袋が置かれた地下鉄の車両も、袋を除去しただけでそのまま運行し続けていたようです。サリンがどれだけ危険な物体か知っていたら、対応は変わっていたはずです。それが被害を拡大させることになってしまった。

そして三つ目は、オウムに対して特に激しい怒りを感じないという被害者が少なからずいたことです。その方も、決して事件を風化させたわけではありませんでした。どうしてそこまで寛大な気持ちになれるのか。私には理解できませんでした。
けれど、最後の最後に掲載されていた村上春樹の解説を読んだとき、個人的な結論を導き出せたような気がしました。小説と違い、ノンフィクションであるこの本では、村上春樹が読者に伝えたかったテーマというのが割と明確に表現されているように感じます。
undergroundという単語の意味は、当然「地下」です。誰しもが考えたはずです、忌まわしい事件が起きたあの場所を示しているんだと。けれど、村上春樹の解説を読んで、その単語に含まれたもう一つの意味に気づかされたのです。
それは、本の言葉を引用すると「自分自身の内なる影の部分」。undergroundには「目に見えない部分」という意味もあるのです。
オウムへの怒りを感じない被害者の方は、気づいていたのかもしれません。オウムの抱えていた心の闇というものが、自分自身の中にも存在するということに。
もしかすると、世の中に起きる全てのこと…浮気、失恋、裏切りなど、ひどい仕打ちを受けたときは、自分自身のどこかにも相手と同じ気持ちが存在するんだと認めることで、許せるようになるのかもしれません。あくまでも、憶測ですけれど。

誰しもが心の中に持つ、闇。小説家なら、別の形(フィクション)を用いてそれを表現することも可能でしょう。けれど、村上春樹は、地下鉄サリン事件の被害者の言葉をそのまま用いて、闇を表現することを選択しました。心の闇というものは、平凡な日常の中にこそ、色濃く反映されるものではないでしょうか。
あの日だって、あの事件が起こるまでは、皆いつもと変わらない生活を送っていたのですから。

テーマ : 最近読んだ本 - ジャンル : 本・雑誌

08:55  |  村上春樹  |  コメント(4)

Comment

もう読まれたのですね!

いや~。もう、ジャイさん。本当にすばらしい文章ですね。ジャイさんの洞察力と読解力、ほんとに惚れちゃいます。

かなり厚い本で読みごたえがあったと思います。
しかも、後半になってくると、似たような証言が続き、多少私は疲れてきました。でも、その『似たような証言』というのが、実はとても大切だったのでしょうね。彼らの体験した、日常の中でおこった非日常が、どんなものであったのかという意味が、その共通点を読み解くことで分かってくるからです。それをジャイさんが見事に読み解いてくださいました~。

村上春樹は、井戸の中や、暗闇、そして地下を好んで作品に取り入れていますね。そこでこの事件が起こったということで、彼には何かしら感じずにはいられなかったのでしょう。

できるだけ多くの人から、証言をとったというこの本に対して、オウム信者側からの証言をまとめたという『約束された場所で』は、その証言数が圧倒的に少ないことが気になります。つまり、村上春樹に協力的な信者からの証言しか得られていないわけです。そういう点でこちらは少し物足りなさを私は感じました。とても面白くはあったのですが。

ああ、村上春樹のことになると話しが止まらない(笑)。このくらいにしておきます。失礼いたしました。
空花 |  2011.05.07(土) 00:58 | URL |  【編集】

Re: タイトルなし

空花さん

コメントありがとうございます。
おっしゃるとおり、この本はものすごいボリュームです。現物を見たときにビックリしました。読むのには数日かかりました。読むのに時間がかかったのは、もちろんページ数の多さも理由になるのですが、それよりも、書かれている内容の重さに心が苦しくなってしまったからです。まだ読める時間はあるけど続きは明日にしよう、なんて具合でした。

> しかも、後半になってくると、似たような証言が続き、多少私は疲れてきました。でも、その『似たような証言』というのが、実はとても大切だったのでしょうね。

同感です。けれど、最後に掲載されていた遺族の二編が突き刺さりました。

> できるだけ多くの人から、証言をとったというこの本に対して、オウム信者側からの証言をまとめたという『約束された場所で』は、その証言数が圧倒的に少ないことが気になります。つまり、村上春樹に協力的な信者からの証言しか得られていないわけです。そういう点でこちらは少し物足りなさを私は感じました。とても面白くはあったのですが。

ふふふ、実は私、「約束された場所で」も読みました。日を改めてブログにアップしようと思っています。こちらも興味深い内容で、またしても自分の中で抱いていた「オウム」のイメージを変えさせられたというか、知らなかったことが明らかになったような気がしました。確かに本の厚みは全然アンダーグラウンドと違いますね。そうか、なるほど。信者の協力が得られなかったという理由があったのですか。納得!
「約束された場所で」は、信者のインタビューの内容もさることながら、巻末の対談も面白かったです。
ジャイ |  2011.05.07(土) 22:27 | URL |  【編集】

そうなんです!
あ、また書き込んじゃった。ごめんなさい。

河合隼雄と村上春樹の対談は最高に面白いんですよね。河合隼雄さんは心理学者だけあって、話を引き出すのがうまくて、村上春樹の考えや思いを上手に汲み取れる。しかも村上春樹と対等に話せる人なんてそうはいないですからね。『村上春樹、河合隼雄にあいにいく』という本もすごく面白かったですよ。

ごめんなさい。ホントに村上春樹の話になると止まらない~。このくらいにしておきます~。
空花 |  2011.05.07(土) 23:29 | URL |  【編集】

Re: タイトルなし

空花さん

コメントありがとうございます。
もう、いくらでもコメント書き込んでいただいて結構ですよー。全然気にしないでください。私も嬉しいです♪♪

> 河合隼雄さんは心理学者だけあって、話を引き出すのがうまくて、村上春樹の考えや思いを上手に汲み取れる。しかも村上春樹と対等に話せる人なんてそうはいないですからね。『村上春樹、河合隼雄にあいにいく』という本もすごく面白かったですよ。

そうなんです、この対談は本当に深いテーマを語っているのです。深層心理をここまで言葉(カタチ)として表現できるなんて。更にすごいのは、この二人は普通に対談をしていること。この難しいテーマで会話のキャッチボールが出来るなんて、凡人には到底できない… 私は、書かれていることを理解するのに結構時間がかかってしまいました。
『村上春樹、河合隼雄にあいにいく』という本があるのですね!!本のアマゾンのレビューを読んでみたのですが、なまら面白そうです。なまらとは北海道弁で「すごく」の意味です。
読みたーい!文庫でもあるようなので、探しに行って見ます。貴重な情報、ありがとうございます!
ジャイ |  2011.05.08(日) 11:03 | URL |  【編集】

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